月兔(げっと)
「 月 」 … 金 文
「 兔 」 … 隷 書
松本筑峯 著
月に棲むうさぎのことで、縁起の良いものです。
月の影の模様がうさぎに見えることから、「月にはうさぎがいる」と、昔から言われています。うさぎの横に見える影は臼で、中国では不老不死の薬の材料を手杵で打って粉にしているとされ、日本ではお餅をついている姿とされています。
『月』は青墨を使用し、風情のある満月を表し、その月の中にいる『兔(うさぎ)』を存在感を出しながら表現をしています。
桃 源 夢
「 桃 」 … 金 文
「 源 」 … 隷 書
「 夢 」 … 金 文
松本筑峯 著
世俗を離れた別世界の夢のこと。
陶渕明の『桃花源記』にある、世間を離れた仙境の夢物語。
ある一人の漁師が谷合にそって舟を進めると、両岸に桃の花が咲き乱れ、ひらひらと散っているところに出ました。
桃の林は延々と続き、ついに水源にたどり着きました。そこで村人達と会い、もてなしを受けました。
彼らが秦の時代に乱を避けて、この地に隠れ住んだという経緯を知って唖然とします。漁師は移り変わった世の中のこと等、いろいろと話してきかせました。
数日、宴は続きました。漁師が桃源郷を去るとき、村人に「ここでの出来事、ここの存在を他言しないでほしい」と口止めをされたのに、それを守らず大守に報告しました。抜け目なく目印を残してきた漁師でしたが、後日その目印を探して舟をこいでみましたが、その道は見当たらず、すべては桃源の夢となりました。
『源』は、夢幻境をさまよう足跡のイメージを、隷書で表現をしています。
大 器 晩 成
「 大器 」 … 金 文
「 晩成 」 … 隷 書
松本筑峯 著
よく、「あの人は大器晩成な人だ」という言葉をききます。
「鼎(かなえ)や大きな鐘は、すぐには出来ない。出来上がるまで準備や工程に時間がかかる」という意味から、大人物になる人もそこに至るまでに時間がかかることを言います。
全紙の対角線と二分した対角線が交わる縦の直線が、構成の中心になっています。
「大」は方向性を示すように、「器」は変容する造形を表し、「大成」は確信の力強さを表現しています。
馬 頭 娘
「 馬 」 … 金 文
「 頭 」 … 隷 書
「 娘 」 … 金 文
松本筑峯 著
昔々のお話です。ある日、父親が突然、何者かに連れ去られました。父親がいないことに気づいた母親は気が動転し、「夫を連れ戻してくれるのであれば、私の娘を嫁がせます。」と誓いました。その言葉を聞いた馬が、突然、つないである綱をきって姿を消しました。
数日後、馬は父親をのせて帰ってきました。母親と娘は父親の帰宅を非常に喜びました。
馬は約束通り娘と結婚できると思っていました。しかし、父親は人間の娘が馬に嫁ぐことはないと拒絶し、暴れる馬をその場で射殺、皮を剥ぎ、庭に晒しました。
ある日、娘が庭を通った時のことです。急に馬の皮がガバッと起き上がり、娘を巻いて飛び去りました。
10日ほどたって娘は桑の木の上で見つかりましたが、そのときは桑の葉を食べ、糸を吐いて、人間の着物をつくる蚕になっていました。
以来、娘の像をつくってこれを崇め、それを馬頭娘(ばとうじょう)と呼んでいます。
日本の『おしら様』のお話と似ている中国の言い伝えです。
本作品では、中央に『馬』を縦長に配置し、墨色を濃淡にしています。『娘』も『馬』同様、金文で表現し、この作品で登場する人と動物との対比と合体する雰囲気を表現しています。
漢字3字の横書き破体作品は、文字の形と構成が重要なポイントになります。
それでも地球は動いている
「 地 」 … 隷 書
「 球 」 … 金 文
「 動 」 … 草 書
松本筑峯 著
皆さんが、よくご存知のガリレオの言葉ですね。
時は17世紀のイタリア。天文学者ガリレオは、自作の望遠鏡で天体を観測し、地動説を確信しました。
しかし当時は、キリスト教の教えが絶対で、神が創造した地球は宇宙の中心であり、地球を中心に全ての天体が公転しているという天動説の考え方がまかり通っていました。
それに対し、太陽の周りを神の創った地球が動いているという地動説は神への冒涜であると教会から弾圧を受けましたが、主張を曲げることはありませんでした。
結局有罪判決を受け、地動説を捨てるように誓約させられ、幽閉されました。ガリレオは判決を受けた直後、この言葉をつぶやいたと言われています。
『地』は存在感のある重厚な雰囲気を出せる隷書で、『球』は地球の丸さを変幻自在に表現できる金文で、また『動いている』は躍動感を出すため草書で表現しました。
四面楚歌の状態で自説を貫き通したガリレオの芯の強さが前面にでている作品になっております。
是がまあ つひの栖か 雪五尺
「 万《ま》」 … 変体がな
「 乃《の》」 … 変体がな
「 栖 」 … 草 書
「 是・雪 」 … 金 文
「 五 尺 」 … 隷 書
松本筑峯 著
一茶は、江戸時代を代表する俳人です。幼少の頃生母を失い、8歳で継母を迎えました。
継母になじめなかった一茶は、15歳の春に江戸に奉公に出され、20歳を過ぎたころ、俳句の道をめざすようになりました。
継母や義弟との遺産相続に決着をつけるため、江戸を引き払って帰郷した一茶は、1ヶ月ほど生家には寄らず、弟子巡りをした後、借家住まいをして13年来の係争に執念を燃やしました。
この句はやっと一件落着したときに、雪の故郷にたどりついてよんだ句です。
生家のある信州柏原は名だたる豪雪地帯で、不遇の一茶を象徴するかのように雪が重くのしかかっています。